手を温めると血圧が下がる

手を温めると血圧が下がる<

手浴は清潔ケアとして医療の現場でも実施

病院で、看護師が寝たきりの患者さんに行うケアに手浴というものがあります。手浴ではなく、足浴なら知っている人も多いでしょう。足浴は、足をお湯につけることで血流を促進し、体全体を温める方法です。

体が温まるとリラックス効果が得られて、睡眠を促す作用などが期待できます。そのため、足浴は、看護師が行うケアとして医療の現場に取り入れられています。 方、手浴は清潔ケアの1つです。「手は使わなければ汚れない」というのは大問違いで、手にはもともと多くの常在菌がいます。使わなければかえって菌が繁殖し、免疫力が低下している患者さんにとっては、それが原因で感染症を引き起こすケースも少なくないのです。 菌の媒介者にならないよう、医療従事者には手洗いの徹底が指導されています。

しかしそれ以上に、保菌者である患者さんの手を清潔にして、菌の絶対数を少なくしておくことのほうが重要だと考えますそこで手浴の効果を調べる実験を行いました。

菌の繁殖を抑えることのほかに、手浴を行うことのメリットが客観的に示せれば、看護師がもっと積極的に患者さんの手のケアを行ってくれるのではないか。そう思ったからです。

実験は、20~37歳の健康な女性11名を対象に行いました。 39℃度のお湯に左手の手首から下をつけ、10分問手浴をして、左右の手の温度や血圧の変化、また、痛み刺激に対する感じ方などを観察しました。

温度を39度にしたのは、入浴時のお湯の温度が37~41度のとき、人は最も「心地よい」と感じて、副交感神経(心身をリラックスさせる神経) が優位になるからです。お湯の温度が熟過ぎたり、冷た過ぎると、逆に交感神経(全身の活動力を高める神経)が優位になります。

実験の結果、手浴を行った左手は皮膚温が約3度上昇し、被験者は適度の温熱感が得られま した。お湯につけていない右手の皮膚温はほぼ変わっていませんが、10分間の実験が終了するころには、わずかながら上昇傾向が見られました。 手や足の先は動静脈吻合といって、動脈と静脈が結合する部分です。そこを温めれば、温まった血液が全身を循環するため、体全体が温かくなります。体全体の温熱効果を得るには、太い血管や足などを温めたほうが効果的です。しかし、足 浴ほどの効果はないまでも、片方の手を温めたことで反対側の手もわずかながら温まり、露出した状態であっても、冷えることはありませんでした。

手浴後に温まった手を覆って保温すれば、時問の経過によって温かな血液が全身を巡ります。すると、体全体が温まっていく可能性が増すはずです。

手を温めることでマイナスの感情が激減

痛みの感じ方について、手浴を行っていない右手の腕の内側に電気刺激を与えて、被験者に痛みの強さを0~100の範囲で評価してもらいました。

すると、手浴をする前に比べて、手浴中は被験者が感じる痛みの強さが有意に低下しました。刺激 を与えたのは、お湯につけていない側の腕にもかかわらず、鎮痛効果が得られたのです。

このことからも、体の一部分の加温が、全身に影響を及ぼすことが示されたといえるでしょう。さらに、手浴によって被験者の拡張期血圧(最小血圧)も有意に低下しました。もちろん、正常範囲内での変化です。これは、手浴によって、副交感神経が優位になったことを示しています。つまり、リラックス効果が得られたということです。

別の実験では、手浴前後の感情の変化を測定したデータもあります。39~40℃ のお湯につけて、感情尺度を測定する「POMS」によって、その前後の変化を比較しました。

手をお湯につけていた時問は2分間です。それによると、手浴後は「緊張・不安感」「抑うつ・落ち込み」「敵意・怒り」「疲労」「混乱」といった、マイナスの感情が低下するという結果が得られ ました。お湯に手をつけると、清潔感や快適さが得られるだけでなく、ネガティプな感情まで抑えることができるのです。寝たきりなどで、手が固まってしまっている患者さんであれば、温かいお湯で手浴をすることで問節が柔らかくなります。すると、手が開きやすくなるという効果もあります。 そうすれば、手をきれいに洗ってあげられるので、細菌の繁殖を防ぎ、感染予防にも役立ちます。

なおかつ、患者さんもリラックスし、心地よい気持ちになったり、痛みが和らぐといった効果も期待できるのです。患者さんのケアにあたる看護師はもちろん、在宅で介護をしている人には、ぜひ積極的に手浴を行ってほしいと思います。足浴よりも手軽にできる手浴は、健康な人のリフレッシュ方法としても、もちろんお勧めです。

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